「間借り喫茶」経由「喫茶店継業」という新しい文化の継ぎかた

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聞いてはいけない事を聞いてしまったのかも。
そう思わせられるくらいに彼の表情が悲しそうに見えた。

「”コンビニや缶コーヒーに負けて店を閉めることにした”
そう喫茶店の店主にいわれまして。」


その口調の裏には、どうにか出来たら良かったのにという後悔の念がまじっていた。

「ほんとにもったいないと思って。このときに喫茶店を継ぐというアイデアが浮かびました。」



大阪の東淀川で週に2日だけ、
間借りで喫茶店を営業している山口修平(30)さん。

自ら焙煎もしているという山口さんの淹れる珈琲には、珈琲のボディ
(コク)がしっかりとありつつ、何杯でも飲めそうな軽やかで澄んだ味わいが同居している。

間借りするお店の最寄りである東淀川駅は新大阪から一駅。
数軒のお店と駐輪場が広がるのんびりとした駅前から2分ほどあるいた場所で、恋人の秋山さんとふたり、これぞ喫茶店といったメニューを提供している。

毎週金曜・土曜日に大阪で営業している喫茶 水鯨外観
毎週金曜・土曜日に大阪で営業している喫茶 水鯨外観

ーさっきのお話しですが、コンビニのコーヒーに負けてしまったというのはどういうことですか?

「ご主人が喫茶店をはじめた30代の頃は、雀荘への出前があったり、常連さんが多く通ってくれたりして喫茶店経営も安定していたと思うんです。」

「いまはどこでも手軽にコーヒーが買えるようになりました。それこそ、コンビニのコーヒーや自販機の缶コーヒーは100円ちょっとだせば買えますよね。お洒落なカフェやコーヒースタンドも町中に沢山出来てますし。」

「時代が変わって喫茶店から客足が遠ざかっても、そこのご主人は店の赤字を自分の年金で補填しながら続けていたそうですが…
喫茶店をはじめて50年目の区切りで、いよいよ閉める決断をしたと仰っていました。」


ーめっちゃ悲しいですね…

「そうなんです。店の思い出や歴史も、閉じてしまったらなくなってしまうので。」


80代になり後継者もいないまま店をたたんだ店主のエピソードを話す山口さん。
この店に限らず、町からひっそりと姿を消してしまう喫茶店の数は決して少なくありません。

日によって様々な地域の豆から選べる喫茶 水鯨のドリップコーヒー

大阪芸大を中退して、辻調理師専門学校で料理を学んだ山口さん。
料理を学び始めた頃はカフェ経営志望だったそうです。

「調理師学校を卒業後に就職して配属されたケータリング部門では、石の上にちょんって料理が乗っているような非日常感あるパーティー用の料理を作っていたんです。」

「毎日めちゃくちゃ働いていたので、休憩や休日に行く喫茶店のほっと肩の力を抜ける雰囲気と一杯のコーヒーから元気をもらっていました。」

「そのうちに喫茶店で出される苦味のある珈琲が好きになって。落ち着ける雰囲気も好きになって、だんだんとカフェではなく、地域に根付く普段づかいの喫茶店に心惹かれていくようになりました。」

山口さんの作るお手本のようなクリームソーダ。緑・赤・白の色合いが目にも楽しい。
山口さんの作るお手本のようなクリームソーダ。緑・白・赤の色合いが目にも楽しい。

それからいろいろな喫茶店を巡っていくなかで出会ったさまざまな人との繋がりが、めぐりめぐって今の山口さんの活動につながっているそうです。

「焙煎に関しては珈琲焙煎研究所の川久保さんに出会ったことが縁で、今年に入って東三国で焙煎機をお借りしてはじめました。そのあとイベント出店も誘っていただき、普段はネットでも豆の販売をしています。」

イベント出店中の山口さん

ー今年から焙煎をはじめて、このクオリティを出せるってすごいですね!!

「6月に一度壁にぶつかりました。焙煎した珈琲にいやなエグ味が出てしまったんです。梅雨で湿度が上がったのに、今まで通りの方法でやっていたのが原因なのかもしれません。”水抜き”をしっかり心がけることで、スランプを乗り越えることが出来ました。」

(*水抜きとは、焙煎作業の途中、1ハゼ(150度前の段階)の前にしっかりと時間をかけて温度を上げて豆から水分を抜く工程。この工程を経て、最初は青臭さのある香りも火が入っていく過程で無臭に近づいていく。)


「使わせてもらっている焙煎機は、アナログの直火式のもの。毎回ちょっとずつ仕上がりに変化があるんですね。その表情の微妙な違いに発見があって、面白味があります。」


ー間借りをしているお店の方とはどうやって知り合ったのですか?

「川久保さんに喫茶平凡の店主・中川さんを紹介していただきました。この夏から週に1日、10月からは週に2日(毎週金・土曜の12:00〜22:00)、間借りで喫茶営業をさせてもらってます。」

 
水鯨のイラストは恋人の秋山さんが描いたもの

ー間借りをしている喫茶平凡や東淀川の町はどんなところですか?

「東淀川はいい意味で人と人の距離が近くて、人情味のある町です。平凡のお客さんは魅力的な方が多くて、お店の雰囲気をお客さん含めみんなで作り上げている感じがあります。」

「店主の中川さんは珈琲を誠意と捉えていて、そのときに出来る範囲で最大限の誠意を込めて珈琲を淹れています。」

「お客さんはそんな喫茶平凡に様々なものを差し入れてくださって、金曜日に行く度にものが増えていってるんです。最近ではパン・スライサーにレコード・プレーヤー、あとギターの差し入れがありました!」

ーお客さんとお店の繋がりがすごいですね!僕が遊びに行ったときも和気あいあいとした雰囲気で皆さんと楽しくお話しさせてもらいました。

 
常連さんとの会話が楽しい喫茶 平凡店内。左が店主の中川さん。
 


ーちなみに山口さんの屋号である”水鯨”ってかわいい名前ですが、なにか由来などあるんですか?

「喫茶店がどんどん潰れ、鯨は絶滅の危機に瀕しています。そんなお互いに数を減らしている状況で、喫茶店を継いで行きたいのと、屋号に元々好きな鯨を入れたいという気持ちから水鯨とつけました。」

「”水”をつけた理由は、水の中を鯨が伸び伸びと泳いでいて欲しいのと、僕自身も好きな喫茶店を継いで今後も残していけたらという想いを込めています。」

ー喫茶店を継いで残していく中で、ソダテタでサポート出来るこや、難しいと感じていることはありますか?

「物件探しです。関西圏の閉店情報は自分で調べているのですが、立地が良くなかったり、条件が悪かったりで。いまの時代にお客さんが入ってこない場所が多いんですね。

潰れましたという物件はあるんですが、継ぐにあたって僕がやっていける物件でないと…継ぎました、でも僕もやっぱりだめでした、となってしまっては仕方ないので。

そういった点でも、自分に合った物件を探しだすことは簡単ではないなと思っているので、物件の情報をいただけたらありがたいです。」

ー継ぐことがゴールではなく、継いでからがスタートですものね。将来お店を継いだ時にはどんなお店にしたいとかイメージはありますか?

「喫茶店としての空間を大事にしたいです。美味しい珈琲を飲みつつ、良い椅子やソファーがあって自由にくつろげたらと。それは喫茶店が今までつづいているだけあって、ニーズがあると思っています。
そのくつろげる空間に、僕が学んだ珈琲や喫茶メニューを出せたら最高ですね!」 


 
喫茶 水鯨の昔懐かしい趣のたまごサンド

「あと、僕みたいな発想の持ち主が少しでも増えて鯨が伸び伸び泳いでいるように喫茶がもっと繁栄してくれたら、好きな喫茶の絶滅が止まるのではないかという希望があります。そのためにはまず僕がきちんとお店を継いで、残していきたいですね。」

そう笑顔で語る山口さん。


大阪をはじめ関西でのカレーブームは「間借りカレー」で火がついた感じです。

”間借り喫茶”も新たな流れとなり、喫茶店文化の再興につなげられる方法の一つになれば、とそう思いながらお話しをさせていただいているうちに予定していた取材時間も終盤にさしかかり、山口さんがおもむろにしかしあくまで遠慮がちに恋人である秋山さんと先日、広島の厳島神社で婚約をしたと教えてくれました。

照れ臭そうに話すお二人の笑顔が、私には眩し過ぎたのですが、同時にお二人の未来と共に喫茶店文化の明るい未来が見えた気がしたのです。


喫茶平凡の中川さんは山口さんのことを、前世で徳が高いひとだったんだと言っていました。まさにその言葉に深く頷くばかりです。

そしてそんな素敵なお二人にあてられて、最後にもう一つだけ質問してみました。

ー秋山さんから見た山口さんってどんな方ですか?

「一言でいうと、天然記念物みたいな人です…」

ーあ、僕も保護したいと思って、ソダテタに声かけたんです!


「大学の頃から独特で、あんまこういう人いないよなっていう。京都タワーが見たくて、大阪から京都まで夜中に自転車こいで行ってしまったり、旅先では神社に目がなかったり。」

「流行りに流されず好みもまっすぐなんです。それが人と変わってるものが多いんだけど、心の底から好きなんやなって。」

なるほど、心の底から愛する喫茶店文化を残そうと思っているからこそのこの自分なりの今のスタイルで活動する山口さんを言い当てているなと思いました。


山口さんの継ぐ喫茶店に僕もぜひとも行ってみたいので、閉店予定の素敵な喫茶店の常連さんやご近所さん、またそろそろ閉めようかと思っている喫茶店経営者の皆様!

ここに喫茶店を継業したい熱意と愛情をもって準備に勤しむ若者が居ますので、​是非ご連絡をください。


喫茶 水鯨(@kissa_suigei

たかたこうへい (@paddy193018):写真撮影 #1/6/8/11/12/14

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この記事のディレクター

五条ゲストハウス広報/バリスタ/フォトグラファー/ライター/イベント企画

麻田 景太

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#大阪 #コーヒー

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