家庭や学校という比較的小さめの枠と、一般社会という大きな枠。
自身の成長によってその両方に所属し始めるいわば端境期とも言える高校生の時期に、
ちょうどその二つの枠を繋げる枠組みとして存在するのが#おかやまJKnote。
ここでは、先んじて大人が用意している一般的なルート以外の成長ルートを
自分たち自身で探り学び、活動し経験することができる。
<今回の主な登場人物>
■のむたい先生とみぎちゃん先生
・のむたい先生(以下、のむ表記)
大学卒業後、私学の高校で教鞭を取りつつ、子供たちを枠にはめない教育を目指し地域に根差した教育活動を開始。
教員を退職後は一般社団法人「SGSG」を設立し運営に尽力。
併せて高校や大学での非常勤講師を勤めたり、某財団での勤務などを経験。
今冬からSGSGでの新たな試みとして学生向けに「社会の中でのお金の仕組み」に関する塾を開始。
ことあるごとに学生服を着がち。
・みぎちゃん先生(以下、みぎ表記)
関西の大学を卒業後、大手塾講師を経て地元である岡山に戻る。
衣料品店勤務を行いつつ、教育関係の会合で出会ったのむたい先生の誘いもありSGSGでの塾講師に就任。それをきっかけに、JKnoteでもスタッフとして働く事に。
(JKnoteには高校生の息子さんも参加中。)
お酒が大好きで、それ絡みの武勇伝多数。目下の悩みは「たまに20代の子に年下扱いされる事。」
20人ほどが入れる塾教室のような部屋、見学に訪れた教育関係者数人が最後列に並び、その前では様々な制服、私服姿の高校生が大学で教育関係を教えているという先生の講演会を聞いていた。
講演の最終盤、最後列付近に座っていたある少女が「アドバイスが欲しい」と言い挙手をし、“ある友人のおかれる立場”を語り出す。
内容は、高校生時代特有とも言えるだろうコミュニケーションの難しさに友人が困惑しているという話だった。
その内容のわりには、少し違和感を覚える程快活な印象を与える少女の話し口調が、話の本題に踏み込んだ途端、俯き加減で切れ切れなものになった。
その刹那、彼女から数席の間をおき座っていた幾人かの少女が、示し合わせたかのように方々から彼女に駆け寄り俯く彼女の全てを覆いつくすかのように包み込んだ。
その様子は、まるで絶体絶命のピンチに颯爽と現れる映画やアニメのヒーロー達のようだとさえ思える早技だった。
しかし、何よりその事態に対して誰も感嘆せず、そして奇異の目を向けず、ただ見守っている事にこそ驚かされたのだ。
ああここでは、これこそが日常なんだ、と強く感じたエピソードである。
ーまず、異変に対してあれほど即座にそれも躊躇なく自分から動く子たちが何人もいる事に驚きました。
(のむ)「そうですね。有り体に言えば共感力のようなものが強い子たちもここには居ますから。」
ーそれでもです。これだけの人がいる場で即座に動けることに驚きました。
(のむ)「うーん、おそらくあの子たちにとって、ここが教室でもあり、家でもあり、そのどちらでもない“自分たちの空間”だって事もあるのかもしれないですけどね。」
ここは、岡山駅前にある奉還町商店街の一角。
彼らが活動の拠点にしている「SGSG」という教育を目的とした社団法人が運営するスペースだ。
このSGSGでは、学習塾的な事も行われ、多くの高校生が授業を受けたり、小学生向けから、大人向けまで幅広い人々が学習できるワークショップを開催していたりと、地域に根差した教育活動を中心に行っている。
中でも特筆すべき活動の一つが社団法人代表ののむたい先生とみぎちゃん先生、それにこの企画の卒業生でもある大学生スタッフの計4人が中心となって運営する『#おかやまJKnote』という活動で、冒頭のくだりはまさにその活動中の一コマ。
ちなみに、『JKnote』とは『ジャスト高校生(高校生だけ)による活動記録』という意味合いだそう。
ーそしてやはり気になるのが、あの光景に対して、驚いているのが私だけだった事です。日常的な光景だということでしょうか?
(のむ)「先ほども言ったように、ここに来てる子たちがここに来る理由はいろいろあって、共感力が高い子もいれば、それほど高くない子も居るんですよね。本当にみんな色々で、だから確かに日常的に本当に色々なことが起こります。」
ー確かに、全ての学生が動いたわけではありませんでした。
最初にここの存在を伺った時の勝手な想像ではドロップアウトした子や感受性が強過ぎて生きづらい子とかが居るのかな?と思っていたのですが。
(のむ)「そういう子たちも含めてみんないます。笑 ヤンチャな感じやった奴も、生徒会長するような真面目な奴も、大人しい奴、とにかく明るい奴、ちょっと変わったような奴も。」
ーつまり岡山の高校生たちの縮図みたいなものですかね。
(のむ)「そうですね。強いていうなら、おそらく共通してるところは学校や、学校の部活の枠におさまりきらない子たち。もう一つの場所が欲しかった子たちやって事だと思います。」
ーそういった子たちはいま、多いのでしょうか。
(のむ)「平成の教育は昭和の教育を引きずっていたと言われています。人口がどんどん増加する中では平均的な能力をあげていく教育、裏を返せば個性を排除する事になりかねない教育が主流でした。しかし子供が減り、
個性や多様性が尊重される時代になっても、そこから上手に脱却しきれてるとはなかなか言えません。」
(のむ)「そんな中で、ちょっとだけはみだしてしまう子はやはりいます。既存の部活にやる気が出んかった子や、本当にたまたまクラスの雰囲気に馴染めなかった子たちもそうですし、学校の中じゃのうて社会の中で色々やりたい事がある子とか。」
ーなるほど。もう一つ印象的だったのは、講演会でのワークショップ中にのむたい先生が、ある男子学生の書く文字の可愛さに気づき、隣の女子学生にもそれを教えて「かわいい文字!」と談笑し、更には少し離れた場所に居るみぎちゃん先生を呼んできて、また二人でその可愛さを褒める姿です。
(のむ)「ああ、本当に可愛い文字だったんですよ!」
(みぎ)「あれ、可愛かったよねー!」
ーあの「皆で褒める行為」は比較的シャイな男子高校生の肯定感を高めて受け入れるきっかけにしたくての行動だろうと邪推したのですが…。
(のむ)「うーん、どうじゃろう。普通の事やと思うんですよね、自分が良いなと思った事を周囲と共有してくって。そうしたらそれが結果的に仲良くなるきっかけになってく…じゃないですか?」
(みぎ)「まぁでも言われてみると、私たちもそうですけどここでは子供たち同士でも自然と褒め合ってる気がしますよ。」
(のむ)「自分たちで何がいい悪いを考えて対話して、そうやってうまくまわるように、この場という存在を大切に思うてやってることの一環なのかもしれませんね。」
ーそれはすごい事ですよね。その為に子供たち同士が自発的に褒め合うってことですよね。
スタッフの大学生も、その側にいた高校生も口を揃える。
(大学生スタッフ)「俺、そこまで考えて無いかもですけど、そもそもここに来てる奴、全員尊敬してますよ。自分に出来ん事をできるし俺が持っとらんもんを持っとる。自分とみんな違うから面白い。勉強になるし、ためになる。みんなと力を合わせると色々な事ができる。だから、感謝もするし自慢もできるし、褒めますね。」
(高校生)「そう。みんな褒めてくれるし、確かにみんなに肯定されてる気はする。というか、だいたい何言うても『あかん』って否定をされん。これやりたいって言うても『とりあえずやったらええがぁ』って。笑」
ーそれは誰が言うんですか?
(高校生)「みんな。笑 のむたい先生もみぎちゃんも言うし、やりたい言うたら、どうやってやる?ってみんなも相談にのってくれる。」
(のむ)「確かにその“やったらええがぁ”の精神はありますね。出来るか出来んかは私にも分からんし、出来んでもそんなすごい赤字になるようなことはないんでね。とりあえずやってみて、それから考えたらええ。笑 」
(のむ)「せっかく学校や塾やと違う所やのに、上から出来る出来ん言われたら意味ないじゃないですか?
だから、たまにある地元企業さんとかからのコラボのお誘いや、みんなが興味持ちそうな高校生向きの公募情報とかにどういうのがあるか紹介はするけど、考えるのは皆。それでやりたいもんはやって、やりたくないものはやらんででやってます。何やるにも本気でやった方がええですから。」
ー自主性に任せる。ということですか?
(のむ)「そうですね、私らがやることはあくまでも枠を維持してやることで、これやりーやーって言う程度のお勧めをすることもほとんど無いです。そもそもこの#おかやまJKnoteもやりたいことをやれる学校外の居場所を欲しがった一人の女子高生が中心になって立ち上げた活動ですからね。」
ーのむたい先生が立ち上げられたのではないのですね?
(のむ)「非常勤講師をしていた学校でたまたま話かけてきた生徒が、学校の枠の中だけの活動はつまらん、と言い出して、そしたら私の運営するSGSGのスペースを使ってやったらええが、言うて、それで最初はここの商店街でフリマをして、でも失敗して…悔しくて、なので反省点を見つけて、次また挑戦して…の流れの中で、きちんと継続的にやっていきたいという事で、今みたいな組織というか体制を作っていった感じです。」
この#おかやまJKnoteという枠の中で高校生が自主的に活動することで、彼らの自己実現力や課題の解決能力、挑戦心、自己探究心などが育まれ、その活動が、結果的に自分や自分たちの居場所を作ることにも繋がっている。
自分たちで作り、維持発展させている自分たちの居場所(社会)であるからこそ、維持発展させるのも自分たちでという良サイクルを生み続けているわけですね。
そしてきっと、膝を付き合わせて繰り返される対話は人を思いやる気持ちに支えられたコミュニケーション能力の発達にも繋がるのだろうと。
ーみぎちゃん先生は比較的最近参加されたと伺いました。
(みぎ)「そうです。私が顔を出しだしたのは割と最近で正式に参加したのはこの春からです。今も洋品店のスタッフとダブルワークになります。最初はSGSGで開催してる塾の講師として参加して、面白そうだからとこちらにも、って流れですね。実は私の息子もここに通っていて、娘も皆と仲良くしてもらってます。笑」
ーそうなんですね。みぎちゃん先生に参加してもらうことになったきっかけは?
(のむ)「2年運営して来てもう少ししっかりした組織にしたほうがいいだろうと思ってですね。参加してる高校生の多くは女子で、(現在参加高校生は女子18人に対し男子3人)私が男だっていうのもどうしてもあると思っていましたし、女性が参加してくれりゃぁ良いバランスだなと。それにこの裏表のない愛されキャラなんでこれはいいぞと思って。笑」
ー実際、私の目から見ていても良いバランスに思えます。手応えは有りますか?
(みぎ)「親や、先生や、友達にも言えんような事でも話してくれたりもします。お茶飲みにいこうやぁいうて高校生に誘われて、のむたい先生にも言えんのやけど~って色々話してくれる子も居ますね。笑 それを翻訳して少しだけのむたい先生にも伝えて、って感じですかね。なのでどっちかっていうと私はこっち(学生)よりです。笑」
(のむ)「それでええと思うんです。ここには私たち二人が父親役母親役みたいな感じでスタッフしてくれとるここの卒業生でもある大学生が二人スタッフとしておって彼らがお兄ちゃん役って感じかな。それぞれがそれぞれで人間関係を築いて、色んな人が色んな事を考えてるってのがあって。それでいい。」
(高校生)「でもこの前の夏合宿でおかぁさん役のはずのみぎちゃんがお酒呑み過ぎて、あばれて(?!)『みぎちゃん飲み過ぎ!』って大学生のスタッフに怒られて半泣きになってたよね!」
(みぎ)「それはシーッ!」(全員 笑)
ーでは最後に今後の目標というか、この先の展望をお聞かせください。
(のむ)「SGSGとしては、まずは本業を頑張る。もう何が本業かわからん状態ですが、#おかやまJKnoteは一応の会費はあれどやればやるほど赤字になる仕組みなんです。でもずっとやりたかった事なので、続けていく為にも本業を頑張る、ですね。
#おかやまJKnote的には組織はつくれて来たと思うので、次は充実度を上げることです。今後はやれる事を増やしていきたいなと。今は参加者を増やすよりもそっちですね。」
「実際に活動してみて改めて思うのは、やっぱりサードスペースを求めてる子たちも多く、そんな子たちに『そのままで良いよ』ってこちらから言わないでも自然とそう思ってもらえるようになる居場所になったら良いなとは思っています。」
それで、理想を言えばこのノウハウを伝えて活かしてもらって色々な地域に横展開がされていくといいですね。
きっと他の地域にも同じような子供たちはいっぱい居ると思いますし。
それに私が色々と立ち上げようとした時には行政やら色々な所に説明に行ってもなかなか理解してもらえなかったり、理解はしてくれても次に繋がらなかったりでえらい大変やったので!」
教育や人材育成は、そうそうすぐに成果が出るものではないはずで、だからこそ、現実問題として行政の行うそれは社会の変化に合わせた速度感での変化が難しいのでしょう。その為、どうしても実社会とのギャップが生まれがちに思われます。
のむたい先生を中心としたこの#おかやまJKnoteはそのギャップを理想論ではなく実践で埋めていくもの。
実践派なのは現場で親身になって多くの高校生を見守り送り出してきたからこその当事者としての自然な発想と行動なのだろうと思います。
そして教育の現場で長年過ごした当事者だからこそ、賞賛や表彰などの分かりやすい成果を得ることに焦らずに、
できるだけ地に足をつけ、着実に枠組みを育て、枠組みを発展させつつ継続を図っていくことを目標としているのでしょうね。
お話を伺い、現場を訪問させていただきとても意義のある良い活動だと感じました。
のむたい先生が危惧されているように、きっと同じような高校生が日本中に存在することは想像に難くありません。のむたい先生の活動がよりよくなることとともに、これらの活動が日本中に着実に広がる事を、私も願っています。そしてソダテタではその双方を応援させていただければと考えています。
「やったらええがぁ」という若者の背中を押す声が、岡山、そして日本中でが聞こえ続けるように!と願っています。