新潟大学法学部4年生、ヒッチハイカー
2019年秋、台風19号での千曲川の氾濫で、地元の長野県小布施町が被災し復興ボランティアに参加。
災害復興支援を行う一般財団法人「日本笑顔プロジェクト」(笑顔P)の代表・林映寿さんに誘われ、防災アミューズメントパーク「nuovo」創設に参画。
現在大学を休学し、事務局長として施設運営、企画、YouTube配信、災害支援活動とあらゆる業務をマルチタスクに行う。
本来なら実際にnuovoを体験したいところだが
今回はコロナ禍の状況で、オンラインでインタビューさせて頂いた。
「っちわっす!お久しぶりです!!」
はつらつとした元気の良さは画面越しにも伝わる。
ーえーと、立ってますよね?笑 座っていいんですよ?
「立ってる方が頭が冴えるというか!集中できるので!」
そう言いながら、おどけてみせるひょうきんな神戸さん。
まだまだパワーが有り余っている様子だ。

昨年2月の時点でまだ構想の段階だった防災アミューズメントパーク
「nuovo(ノーボ)」は2020年10月にオープン。
最近では豪雪により立ち往生した車両へネクスコ東日本や自衛隊と協力し四輪バギーによる支援物資の提供を行い、新聞やテレビでも取り上げられ広く知られるようになった。
ー防災のテーマパークとはまた新しい発想ですが、どのようなことができるのでしょうか。
「はい、nuovoは防災力が楽しく身に付く日本初の施設です。小布施町の主要産業である農業と防災を紐付けた様々な体験型アクティビティをご用意しています。メインは重機(ショベルカー)やバギー体験ですね」

「四輪バギーはアクティビティ要素が強いのですが、馬力があり小回りが利くので実は災害時に役立ちます。先日の豪雪の際は、立ち往生した車と道路の隙間をすり抜けて支援物資を届けることができました。nuovoでは難易度に合わせて初級、中級、上級コースをご用意しています」

「重機(ショベルカー、又はユンボ、バックホーとも言う)は穴を掘る、地面を整える、アームの先を変えて重いものを持ち上げるなど災害復興の様々な場面で活躍します。nuovoでは2日間の重機オペレーター資格講習を行っています。慣れれば自分の手足のように動かすことができて楽しいですよ。そうなるにはとにかく身体で覚える必要があるので、定期的に重機を操縦できるサブスク制度もご用意しています。乗って操縦した分だけ身につくので、資格取得後はぜひサブスクコースまで進んでほしいですね。今、人手が足りていないので、腕を上げた方が今度はアルバイトとして重機講習のインストラクターをしてもらえるようになるといいなと」

「危険が伴う災害現場では重機もバギーも乗り慣れていることが大事です。なのでnuovoでは、まずアクティビティとして興味を持ってもらい、資格を取得して頂き、サブスク会員として定期的に訓練を楽しみながら実践でも役立つスキルを身に付けて頂くという仕組みなんです。資格を取ったら終わりではなくその後のアフターフォローもしっかりさせて頂きます。笑 ですが何事も楽しくないと続かないので、nuovoはテーマパークとして『楽しい』をモットーにしているんです」

ーハードな印象だが子供でもnuovoを楽しめますか?
「小さなお子様連れのご家族にも楽しんで頂いています。親子で一緒にバギーに乗ることも、インストラクターの運転の元での重機体験も可能です。バギーは平坦な場所での運転もできますし、見学のみももちろんOKです」

「また、nuovoでは農業体験もできます。皆さんご自身で収穫した根菜でのBBQを楽しまれていますよ」

「ありがたいことにタイアップして頂ける企業様が増え、続々と新しい施設ができています。災害対策の視察として訪れる行政の方や企業のトップ層の方も多く、災害対策アイテムのショールームのような位置付けになってきています。まだまだ募集中です!」

「より身近に感じて頂く為にキャンプ要素も取り入れていて。キャンプアイテムは災害時に役立つものが多いので相性が良いんですよね。nuovoの敷地は広い有休農地を活用しているので土地の広さも十分にあります」

ーnuovoが生まれたきっかけは千曲川が決壊した2019年秋の台風19号ですよね。
「はい、僕は当時大学のある新潟にいたので地元の被災状況をSNSで知って。これは戻らなければと感じて駆けつけました。はじめは家族や親戚、友達の家の復旧の手伝いをしましたが2週間経ってもまだまだ人手がいると感じて。新潟と小布施を何度も往復してボランティアに参加しました」

「ボランティアを長期的に続けると、身体もですが心が疲れてしまうんですよね。被災した方を前に笑顔になんてとてもなれないし、むしろ笑顔は不謹慎な雰囲気なんです。となるとどうしても気持ちが滅入ってしまう。そんな時にボランティアのための炊き出しをしてくださったのが、復興支援ボランティアを行う一般財団法人『日本笑顔プロジェクト』(笑顔P)だったんです。温かく美味しい食事が出てきて…本当に救われました」

「ここで代表の林映寿さんと出会い、笑顔Pのメンバーとして本格的にボランティア活動を行うようになりました。」

ー民間のボランティア団体がなぜ重機講習まで行うことになったのですか?
「小布施町は栗やりんごが有名で、秋になると秋のスイーツ目的に全国から観光客が訪れる町。その観光業を支える栗やりんご農家さんの畑に泥や瓦礫が残ってしまったんです。そのままでは樹木が呼吸できず、来年の収穫に影響が出る可能性がありました。更に積雪の多い地域なので、雪が積もる前に作業をしなければならない。ことを急ぐ事態だったのですが行政の対応は遅いし、人命救助で派遣要請されている自衛隊は撤退が早かったんです。それで、民間の我々でやるしかない!と。ですが広大な敷地の人力での泥の掻き出しは途方のない作業でして」

「日が経つにつれてボランティアの方も減り、このままでは農作業の始まる春までの復興が間に合わない。作業ピッチを上げる為に重機を確保しても操縦できる人が圧倒的に少ない。それなら自分たちが資格を取り、講習も開いて操縦できる人を増やそう!と考えたんです。映寿さんの発想で」

「参加者を募ると予想以上に多く人が集まったので、重機オペレーターを100名育成することと、全ての畑の泥のかき出しを4月までに行うことを目標に、重機オペ講習の補助員と現場作業を繰り返していました」

「雪と泥との格闘の末、何とか全ての農家さんの畑の泥撤去に成功しました。小布施は農業で主産業なので、間に合って本当にホッとしましたし農家の方々にもとても感謝されましたね」
ーnuovoの構想はいつから考え始めたのですか?
「nuovoの構想も映寿さんのアイディアなんですが、重機講習を始めた年明け頃でしょうか。『一緒にタックを組まないか?』と誘われて。楽しそう!!と感じたと同時にどうやって作るの?と思いましたが。笑
前例のないものをゼロから作り上げるのはやりがいがありそうでしたし、一緒に始めることにしました。役割としては、映寿さんが仕組みを考え、人を招く。僕は映寿さんのアイディアを実行するにはどうしたら良いかを一緒に考えて、行動に移す。あとは事務的な作業や現場の運営など。映寿さんは大学生の僕にも信頼して色々と任せてくれるので、のびのびとやらせてもらっています」

ーテーマパークにするのはなぜ?
「気軽に楽しく参加してもらう為。そして継続するには収益化が必要だからです。災害時には高い防災意識も、日常生活が戻ると薄れていきますよね。だからこそ、継続するには”笑顔”や”楽しい”の要素を加えることが必要なんです。それで、思い切ってテーマパークにしよう!と。映寿さんの発想は新しくて、いつも驚かされます」

「重機もバギーも操縦すること自体が楽しいんですよ。皆さん結構夢中になって穴掘りされています。その設備費用や燃料代、人件費を工面していく為にも、重機講習やサブスク制度で収益化していく仕組みを作っています」
ーYouTubeもたくさん動画をアップされていますよね
「はい。本来nuovoは去年の4月に始動予定でしたが、コロナの感染拡大の影響でオープンできなくなってしまって。人を呼べない中でどう防災力を高めるかを考えた時に思い浮かんだのがYoutubeでした」

「撮影に協力してもらい、PVも作成しました。防災、重機と聞くと何だか近寄りがたい印象だと思うので、動画で雰囲気を少しでも感じて頂けたらと。コンテンツは防災に繋がる内容や施設の紹介がメインですが、楽しく見て頂く為に体を張ったこともしましたね。笑」

芸人顔負けの体の張りっぷりが見ていて気持ちがいい。
登録数5,000人を超える「日本笑顔プロジェクト」のYouTubeは要チェックです。
ー現在nuovo運営の為に大学を休学中とのことですが、ご家族の反応は?
「実は台風被害に合う以前から休学は決めていて。休学して日本全国、世界中をヒッチハイクで旅するつもりでした。家族はこんな問題児はいないぞ、と猛反対でしたね。ですが故郷である小布施町が被災して、笑顔Pでの活動に携わることで休学の目的が旅からnuovo構想実現へと変わっていって。それで今度は旅せず防災の事業をやる!と報告した時はもう勝手にしてくれ、という感じでしたね。笑」
「活動がメディアに取り上げてもらえるようになってからは、周りの見方が少しずつ変わっていきました。両親だけじゃなく親戚中が応援してくれるようになって、『一家の誇りだ、好きなことをやってくれ!』と。笑 急に手のひら返された感じです、こちらとしてはあれれー?って、いい意味で。やっぱり応援してもらえるのは嬉しいです」

ーヒッチハイクというのが気になるのですが、きっかけはあったのですか?
「大学2年生の春休みに、学生っぽいことしよう!と友人と新潟から福岡までヒッチハイクの旅をしたんです。お金もないですし」
「20日位かけて観光名所を巡りながらの移動でした。その中で、観光名所よりもヒッチハイクで乗せて下さる方との出会いや交流、つまり”人”の方がおもしろい!ということに気付いたんです。敷かれたレールから外れて自分らしく生きる方など、車中でたくさんの話を聞きました。すると自分の世界も広がるように感じて。新しい出会いのある日々にワクワクしました」

ヒッチハイクの面白さにハマり、今度は1人で高知と和歌山にヒッチハイクで行きました。100人位の方に乗せてもらって。同乗させてくれる方は気さくで親切な方ばかりで、食事を一緒にさせてもらったり、そのまま家に泊めてもらうこともありました。
「泊まるところどうするの?」→「野宿っすかね〜」→「じゃあ泊まってく?」みたいな流れで。おかげで旅費は1、2万円。人の優しさやあたたかさに触れられる貴重な経験でした。ヒッチハイクは僕の活動の原点です」
見ず知らずの人に車に乗せてもらい、長い時は3、4時間と狭い車内で時間を共に過ごす。神戸さんの大人にも物怖じしないコミュニケーション能力やバイタリティーはヒッチハイクで鍛えられたようだ。

休学を決意するきっかけをくれた
「休学の当初の目的が旅からnuovo運営に一見変わったようにみえますが、”人と関わる”と言う本質的なところは実は同じで。むしろnuovoはこちらから行かなくても相手が来てくれる。最近は大手企業の代表や役員の方が視察に来られるようになりました。そんな方とこの年齢で対等に話ができるなんて普通の新入社員じゃできないでしょうし、今まで誰もやったことのないものを試行錯誤しながら作り上げていくのが楽しくて仕方ないんです。毎日わくわくしています」
ー今後のことはどのように?
「…うーん、そうですね、またヒッチハイクの旅をしたくなるかもしれません。nuovoに訪れてくれる人は増えてもまだ僕は世界を知らないんです。そして本来大学を卒業する年ですが、それよりも今しかできない大事なことがあると思っています」
「4月からは、これまで重機隊として活躍して下さっていた春原さんが笑顔Pの副代表に就任することになりました。歴10年の介護福祉士職からの転職です。そして僕も雇用という形式で携わることになりました。大きな決断をされた春原さん、そしていつも斬新な発想で道を切り開く映寿さんという偉大な先輩2人と一緒に、本当に必要とされるサービスを目指して奔走していきたいと思います」

「目先の目標は、まず重機オペレーターを1,000人育成すること。そしてnuovoを全国に広げたいです。災害はもう本当に日本全国いつどこで起こるか分からない。平時に楽しく重機に触れて、有事に役立つスキルを持つ人を増やしたいです。防災をエンタメに変えて、楽しく遊んでいたら防災になってた!を目指したいですね。そしてどこかの地域が被災したら、連携して全国から支援にいけるような仕組みを作っていきたい。共感頂ける方にぜひコラボして頂いたりと仲間になって頂きたいです。その為にもまずは小布施に足を運んでほしい。観光ついでに気軽に立ち寄ってください」
ーヒッチハイクにハマったこと、故郷の被災、そして映寿さんとの出会い。
自然災害の恐ろしさを目の当たりにしたこと、継続的な復興に「笑顔」「楽しさ」が必要だと身を持って経験したこと。
全てが繋がり今の彼の選択があると思うと、彼の人生が大きく転換したのは必然だったようにも感じる。
環境汚染の影響もあり今後災害の頻度が増えていくであろう日本で、如何に防災への意識を継続し、高めていくか。
前代未聞のチャレンジに使命感を持って前向きに取り組む神戸さんから目が離せません。
お忙しいところインタビューにお応えくださりありがとうございました!

【日本笑顔プロジェクト公式HP】
【体験型アミューズメントパークnuovo紹介PV】