5人の我が子のためになるしと、『まるごと一軒子どもの遊び場』を作ったら、地域の子ども達も喜んで、親たちはもっと喜んで。

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地域に役立つメディアを作るために
家族とともに東京から移住したテレビマンが
テレビ仕事以外にも地域で自分たちらしい活動をして、
町に少し笑顔が増え、町が少し賑やかになり、
いつかそれが地域の文化になれば良いなと思っているお話。

 

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「大山に引っ越してきたのは新しい仕事を大山に作ったからで、移住したいなー!大山に住みたいなー!という強い思いは最初は無かったんですよね。この『yotte』みたいなことをやろうというのも全然考えていませんでした」
 

「まるごと一軒子どもの遊び場」をコンセプトに作られた『yotte』の外観。

ーそう教えてくれた貝本 正紀さんは2015年に東京から、鳥取県にそびえる中国地方最高峰である大山の麓町「大山町」に移住された。

 

「たまたまこの大山町で取材の仕事があって、地元の人たちがつながりづくりを熱心にやっているのを見て、当時の大山町の町長に企画を提案したのが全ての始まりでした」

 

ー奈良県の橿原市で生まれ育った貝本さんは、大山町へ来るまで東京で暮らしてテレビの制作をされていたそう。

終始はにかみながらいろいろとお話ししてくれました。​

「大山町には、町民ほとんどが加入してるようなケーブルテレビがあって、それまでも町の情報とか町議会を放映したりは有ったんですけど、それを『もっとこの地域に暮らす人たちのためのテレビにしませんか?』と町に提案したんです」

ーこの提案の根源には恐らく彼自身が経験したコミュニティでの出来事が大きく関わっているのだろう。

「それまでは賃貸マンションで暮らしていたのですが、3人目の子どもが生まれて手狭になったのもあって、一軒家を借りて暮らしだしたんです」

ーそこで初めて町内会というものに参加し、隣人やコミュニティというものを強く意識するようになったとか。

壇上でご自身たちの活動内容を発表する貝本さん

「奈良で過ごした子どもの頃は周りはみんな大人で、コミュニティってものを意識しなかったし、大学の寮も同世代だけでの暮らしで。独身時代のアパートや、結婚してからのマンションも、『御近所さん』という大きめの主語で周囲を認識する程度でしかなかったのが、一軒家で暮らしだしたら徐々に周囲で暮らす人のことを知るようになって」

ーご自身も『御近所さん』の解像度が上がったということですか?

「そうですね。御近所さんと一言で言える中にもいろいろな人が居るのが見えるようになったんです。自衛隊員が居たり、議員さん、不動産屋さんとか住んでいて、地域の人っていう付き合い方じゃなくて、一人一人の顔が見えるようになって。それでふと、隣近所で仲良くするとなんでも出来そうだなって気がしてきて。ひょっとしたらこれは、ちょっとした会社より力があるんじゃないかな?って思ったり」

ーそれを大山に落とし込むことを考えたんですね。

「実は大山に来る前に東北の被災地にも行って取材していたんですよ。いくつかのメディアは悲惨さを探してはそれを伝えていたけれど、それは地元の人のためになる仕事ではないなと思っていて。地域の人の役に立つメディアってなんだろう?って考えている最中に仕事で出会ったのが大山町だったんです。大山町には移住者も含めて変わった人、個々で面白い人が居るなという事はすぐに分かって。でもそれがかみ合ってないなぁとも思ったんです。もともと、町を面白くすることには興味があったので、これはメディアの力で変えられるかも!?と思ったんですよね」

中国地方最高峰の大山の麓には広大な森林と美しい海が広がる。


ーここでなら地域の人の役に立つメディアが作れると?

「そうですね。それで町に提案したら通って。移住して『大山チャンネル』という番組を作って、それまでの『行政が流したい情報が流れるチャンネル』から、『全住民参加型の住民がみたいチャンネル』へ変えたんです。具体的な例で言うと『17000の夢』という番組では、毎回肩書の無い町民一人一人に密着したり、『町民ウルトラクイズ』と銘打って地元の野球場を借りて大山町にまつわるマニアックなクイズを住民で競い合ってもらったりしました。町民ウルトラクイズでは司会も回答者もナレーターも会場の設営も全部住民。ドローンでの撮影やクイズ問題を考えるのも地域の人に手伝ってもらいました。番組の企画のほとんどが住民との企画会議で生まれたもので、そこに東京時代に培ったノウハウを組み合わせることで、他のローカルテレビとは一線を画す番組を制作して行きました」

裏方だけでなく時にはMCもこなす。

ー番組作りのノウハウとコミュニティ形成への意識が生かされた番組づくりですね。番組への反応はどうでしたか?

「結構見てくれる人が多くて、次はこの人を紹介すると良いよ!とか、あそこでこんな事やっているよ!って地域の口コミ情報が届くようになりましたね。地域の人が関わって地域の人が欲しい情報を流す番組になってきているなと思います。まずは見てもらうのが大事。流したい情報はそれからだと思うのです」

 

ーテレビマンとしてのお仕事で着々と足場を固めている事がよく分かるエピソードだと思います。しかし、ビジネスマンとしての貝本さんはその旺盛なエネルギーをテレビ以外でも発揮されているそうです。

大山の美しい海をのぞむ場所にあるコワーキングスペース「TRICO」

コワーキングスペースを作ったんです。と言っても一般的なコワーキングではなく、地域の経営者向けのコワーキングスペースです。テレビ番組を作っていく過程で、大山町内での人のつながりは今まで以上にできたと思うんです。でも、まだまだ小さなコミュニティレベルだなと思って、そこからさらに盛り上げるには仕事を生んでいけないかな?と思って。それも、町内だけでなくて、大山町出身の都会に出てってる人たちや、大山町っていいよねと思ってくれいてる人たちと組んで地域課題の解決をビジネスでやれないかな?って。そのための場所をまずは作ろうと考えてシェアオフィスを作りました。このシェアオフィスは、普段している仕事の為に働くメインの場所としてでなく、なんて言うか…サテライトというより、働く人たちのサードプレイスであり、業種を超えて新しい仕事を作るためのプロジェクトスペースとして使ってもらいたいと考えています」

ー初めての町内会への参加で感じたイメージを具現化していく場所なわけですね。

「そうですね。今は地域の7つの企業や団体が法人として利用してくれています。そのメンバーの中には地元診療所の医師もいて、コワーキングスペースの利用者で連携して地域医療の課題を改善する事業や、農業×デザイン×メディアでアプローチする事業などを進めているところです」

TRICOへは、国や県の人が視察に訪れることもしばしば。


ーそんなお忙しい中で、「子どもが大人の目を気にせず自由気ままに過ごせる空間をつくってあげたい」という思いのもと、地域に開かれた子ども部屋であるyotteを立ち上げて運営されていると伺ったのですが、そうとう大変なことじゃないですか?

 

できた当初のyotte。

「これが全く大変じゃないんです。そもそもyotteは嫁さんのアイデアなんです。うちの子どもたちがそれぞれ大きくなってきて、一軒家といえどもさすがに手狭になって、せっかくだし開かれた子ども部屋を作ったら面白くない?子どもが大人の目を気にせず自由気ままに過ごせる空間をつくってあげたいよね、って嫁が言い出して。なのでその嫁をリーダーに、私は広報担当という形でやっています。それに地域に開かれてはいますけれど、ここは本当にただの子ども部屋なんで、目標がない。ノルマもないし、ああしなきゃいけないだとか、PDCAを回す必要もなければこういう成果が欲しいっていうのも全くない。それになによりわが家の子供部屋でもあるので、週末を中心に開けられるときに開けて、無理な時は開けない感じです。助成金とかももらっていないから自由で気ままでいいですよ。そういう意味ではチャレンジですらない。笑」

準備は大人も子供も一緒になって。

ーでも、立ち上げはさすがに大変だったのでは?

「それがなんやかんやと地域の皆さんが手伝って作ってくれたり、必要な物も集めてくれて。テレビゲーム用のテレビも使わなくなったものがあるからと4台かな?5台かな?どんどん寄付してくれて。プロジェクターやスクリーンもありますよ」
 

他にもプラレールやボードゲーム、野球盤など様々な遊び道具が。

ー確かに漫画の本やゲームもいっぱいあって遊びたい放題ですよね。

「あ、テレビゲームだけは最初に本体を一台買って、ソフトもいくつか買ったんですけれど、それからはどんどん集まって…。漫画もそうです。懐かしいものから最新の、まだ連載途中のも含めて相当な量がありますね。でも、最初はゲームで遊んだりしていても最終的に友達さえ居たら後は何にもなくっても遊んでます。ほら、結局は何も無い方が飽きないでしょう?漫画の本も最初は読んでましたけれど、最近は親御さんが読んでいる事の方が多いですね。笑」
 

誰の家でもなく、子供たちみんなの家というリラックスした空気感が漂う。

ーなるほど、まさにyotteは地域の子供みんなの子供部屋という感じですね。運営はどういった形でされているのですか?

「開けられる日程をFacebookやらのsnsでもお知らせしていて、当日の私の仕事は本当に鍵を開け閉めする位です。よっぽど危ないことをしている場合はさすがに注意しますけど、それ以外は本当になにもしていない感じです。ルールは一切ない。放置です。あ、一応ちびっこデイとかガールズデイとか作って、参加しやすさをあげることはしていますけど、そのくらいですね。自然とうちの子たちが通う学区の子が中心になるので、ほっといても子ども達は仲良くなったりならなかったりでうまいことやってますよ」

ボードに貼りきれないほどの子供達が通ってくる。

ー仲良くならなくてもいいんですね。

「そうですね。自由に過ごせば良いと思っています。一人で漫画読んだり絵を描いたりしている子もいます。うちの子ども部屋でもあるけど、それぞれの子ども部屋でもあるので、したいことをすればいいし、無理に仲良くしなくたっていいと思うんです。遊びたい時は遊んで、本読みたい時は読めばいい。大人が何かをやらせる場じゃ無いですしね、自由に使ってもらえるのが嬉しいです。一度中学生の子が友人を連れて来て『まぁ俺の家じゃないけど上がってよ』と招き入れていたことがあって、あれは相当良かったです」
 

本を読んだり、映画をみたり、お話しをしたり自由に過ごす

ーまさに自宅気分!って感じですね。親御さんたちの反応はどうですか?

「子ども達が自分の足で歩いて行ける距離に遊び場ができたのは子どもだけでなく、親御さんたちも喜んでくれてます。地域に公園があると言っても、子どもが徒歩や自転車で行ける場所に必ずあるというわけでもないですしね。それに、うちもそうですが雨の日とか特に子どもの遊び場所に困っていたんです。なので、そういう意味でもみんな大助かりみたいですね。そう、でも少し予想外だったのは親御さんは子どもを預けてパッとどっか行くものと思っていたんですが、気がつけばお母さんたちも上がり込んで井戸端会議したり、さっきも言ったように漫画読んでったり。お母さんたちも自由に使ってくれています」

ー私がお邪魔してる間にも、兄弟の上の子だけ預けてその間に買い物に出かけるお母さんもいれば、子どもを遊ばせている間に井戸端会議に興じるお母さんも居たり。子供と一緒に遊んでるお母さんも居たりとそれぞれがそれぞれ自由に過ごされていました。
 

人気漫画を中心に2000冊以上の漫画が揃う。少女漫画はおかぁさん方に人気だとか。

ただ大人がこれだけ集まると、もう少し気の使い合いが見えてもおかしくないのでは?などと気になったが、その辺りも子どもが先にありきなので自然と調和が取れているらしいです。まさにいいこと尽くめですね。

「ほんとですよ。何より、週末ごとに子どもをどこに連れて行こうか?って悩んだり出かけて疲れたりするのが無くなって逆に楽になったのが良かった。それに、お金も随分と浮いて助かっています。笑 子ども5人連れて遊びに行くと毎回相当なお金がかかっていましたからね」

お互いに過干渉することなく、それぞれの時間を過ごす。

ーしかしチャレンジはしていないという事でしたが、今後の進展というか、方向性はどうお考えなのでしょう?

「まぁもちろんうちの子たちが大きくなったら代替わりというか、ここ引き継いでくれる人ができると良いなと。あと、ちょっとそろそろここも手狭になって来たので、2号店3号店的に増やして行けたらとは思っています。そしてこういう場所が徐々に増えていって、地域に根付いていずれ大山町のカルチャーになればいいなとは考えています」

ーなるほど。その次の展開に向けた次の物件の目星は具体的についているのですか?

「実は、この物件のすぐ近くによさそうな物件があって、そこを次の場所にできないかな?とは考えています。そこは売りに出ている物件で250万円程度らしいのですが、そこを買う買わないは置いておいて、そこを中学生向けの『場』にしてあげられないかな、と考えています。ヤドカリが成長時に貝殻を乗り換えて成長していくみたいに、今yotteに来ている小学生が、次はちょっとグレードの高い遊び場に移動する、みたいなイメージの場所ができないかなと」

これまでの知見と展望を身振り手振り交え説明してくれる貝本さん

ーご自身のお子さんたちの成長にもマッチするお話ですね。

「そもそもこのyotteも自分たちの子どもの成長に合わせて出てきたアイデアでもあるので、自然な流れかなぁとは思います。あと今のyotteみたいな場所がもう少し増えていって、2号店、3号店的が大山町にできるといいなぁと。でもそれは僕らがやるというよりも、できれば文化として広がっていくといいなと思っています。なので後継者というよりは今はこれを文化として広げていってくれる人が欲しいですね。それも今いる子どもたちの中から出てくるとなお良いですよね」

ー子どもたちが自主的に運営するような姿をイメージされているのですか?

「そうですね。でも運営だけでなく、今は大人がしつらえた場所に子どもが来ている感じですけれど、これを子どもが作り始めると面白いな、って事も考えていて。例えば、場所を作るにはお金が必要だからじゃぁどうする?野菜を売ろうか?って子どもたちが自分たちで考えて動き出したりね。そうやって子どもの王国、子どもの町が出来ていくってのが理想ですね」
 

無料ではあるもののわかめの流通を作ったり、室内では駄菓子やジュースの販売も。経済観念の萌芽を感じる

「ここで遊んだ子どもたちが大人になったときに、自分だけじゃない友人や仲間や誰かのために自分たちで考えて行動できる人になってもらいという思いでもあるんです」

ー地域コミュニティの形成という側面からみてもとても良いなと思います。

例えば、応援サポートのプランの一つとして、
もし貝本さんにこういうyotteのようなアイデアを立ち上げたいという地域や団体の方がいた場合、それが大山町以外の場所でもご相談に乗ってもらう事は可能なんでしょうか?


「そうですね、こういうカルチャーが大山で培われていく事が狙いですけれど、他の地域でできるのももちろん嬉しい事なので、今までの経験やノウハウを価値あるものとして認めていただけるなら応援していただけると嬉しいですし、お仕事として引き受けるご相談もできるかと思います。でもお仕事やお金も嬉しいですが、なによりみんなからの「やさしさ」「温かさ」をいただけたら嬉しいです。『世の中の人のやさしさに”ヨッテ”成り立つ家』を実現&可視化することが、僕ら夫婦の目標なんです。『お金にならないことをしていると、お金じゃ買えないモノが手に入る説』を唱えていて、そんな感じで関わってくれた人や、地域の人が通りがかった時に、ほっこりとやさしい気持ちになってくれたら素敵だなぁと」

ーお話をうかがえてよかったです!今回の記事をきっかけに、このアイデアに参加して文化を作り広めて行きたい!と思ってくれるような人たちと出会える機会になれば良いなと思います。

貝本さん、お忙しい中、インタビューにお答えいただきありがとうございました。
引き続きよろしくお願いします。

 

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鳥取の大山町に移住した貝本さんとそのご家族がつくりあげる未来を応援したい、そして一緒に文化を作っていきたいと思われた方は、彼らの活動を応援をして、ソダテテいきませんか。
 

<大山チャンネル>

<TORICO>

 


<yotte>

 

この記事のディレクター

アーティスト/マドリスト/プランナー/うどんの人

森岡 友樹

ちょっとおせっかいなくらいでちょうどいい。

#鳥取 #大山 #遊び場 #教育 #ソーシャル

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