お互いさまの気持ちが貧困を救う コミュニティフリッジ24時間いつでも 食料品を提供

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今回の主人公は、一般社団法人北長瀬エリアマネジメントの理事・新宅宝(たから)さん
制作会社の代表を務めながら、ブランチ岡山北長瀬内になるハッシュタグにほぼ常駐している。

北長瀬エリアマネジメントは、ブランチ岡山北長瀬を含むJR操車場跡を含む一帯のまちづくりに取り組む団体。ブランチ岡山北長瀬を開発・運営する大和リース株式会社の取締役・常務執行役員の森内潤一さんと、NPO法人岡山NPOセンターの代表理事の石原達也さんの二人が代表理事を務め、商業施設、公園の活用から北長瀬エリアがもっと暮らしやすく日々わくわくするような地域づくりに貢献するために作られた。

新宅さんは、同団体としてコミュニティフリッジなど最前線で運営・管理をしている一人。


 






貧困は目に見えない。
子どもの7人に1人が貧困といわれる日本。
2020年・コロナ禍。
加速する課題に、「コミュニティフリッジ」を始めた。
24時間、いつでも使える「みんな共有冷蔵庫」

「コミュニティフリッジ」
聞き慣れない言葉だと思う。2012年のドイツ・ベルリン、食品事業者から廃棄される食べ物を街に冷蔵庫や棚を置いて、誰でも持って帰れる仕組みとしてスタートした。

日本ではここ岡山県が初めて。
きっかけとなったのは、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言だった。「北長瀬コミュニティフリッジ」を運営する一般社団法人北長瀬エリアマネジメントの新宅宝(しんたくたから)さんに話を聞いた。

 

―コミュニティフリッジは、どんな場所にあるのですか?

JR岡山駅から1駅、JR北長瀬駅前に複合商業施設「ブランチ岡山北長瀬」があります。従来の複合商業施設と違い、芝生や噴水、屋外ステージなどがあり、公園のような空間に平屋の建物が並んでいます。書店やカフェ、レストラン、パン屋、花屋など、全国チェーンの店ではなく住宅街の小さなお店が集まったような場所です。

ブランチ岡山北長瀬の隣は現在、工事中。数年後にオープンする市民公園が計画されています。公園と一体化する予定となっています。そもそもJR北長瀬駅ができたのも2005年。2019年にブランチ岡山北長瀬がオープンし、この辺りは、岡山市内では新しいまち・これからのまちといった雰囲気の場所です。

北長瀬のまちづくりを考える「一般社団法人北長瀬エリアマネジメント」を設立し、活動の一つとして「北長瀬コミュニティフリッジ」を2020年11月に始めました。普段は、敷地内にあるコミュニティスペース「ハッシュタグ」を運営しています。ハッシュタグでは、コワーキングスペース、貸し会議室、シェアキッチン事業を行っています。「あたらしいふつう」をコンセプトに、多くの人が気軽にチャレンジできて、今までの自分から新しい自分を生み出す場所を目指して運営しています。


―コミュニティフリッジって、どんな活動ですか?

日本では、フードバンクの活動に近いと思います。

生活に困っている人に、食品を届ける活動としてはよく似ています。違うポイントとしては、提供するものを集めたり配ったりするのではなく、つなぐ場所を提供することにした点です。これは災害支援の時の経験がアイデアとなっています。

ブランチ岡山北長瀬には、3階建ての駐車場があります。駐車場横の倉庫をお借りして、他人の目を気にせず使える場所を選びました。利用者は事前に登録をしていただきます。スマートフォンを使って電子ロックを外すことができ、24時間入退室をできるようにしました。誰に会うこともなく、朝早くても夜遅くても、好きなものを持って帰れる仕組みにしました。



寄付していただいている人を、我々はフードプレゼンターと呼んでいます。登録されたフードプレゼンターは現在、約200人。1日に5人〜10人のフードプレゼンターが訪れます。ほとんどが個人で、わざわざ購入したものを持ってきてくれる人もいます。スマートサプライというサービスを使って、インターネットで購入したものを届けることも可能です。フードプレゼンターの寄付でコミュニティフリッジは成り立っています。

毎日、どなたかが提供してくれるおかげで活動が成り立っています。ブランチ岡山北長瀬内にあるテナントが、閉店後の売れ残った商品をほぼ毎日提供してくれています。感謝しています。

野菜、米、缶詰、レトルト食品、シリアル、調味料、コーヒーや紅茶、お菓子などの食料品を並べていきます。大型冷蔵庫と冷凍庫がありますので、納豆、ヨーグルト、卵、ハム、ウインナーや冷凍食品もお渡しできます。その他にせっけんやシャンプー、トイレットペーパーなどの日用品もあります。受け付けていないものもあります。消費期限が切れたもの、家庭で作った料理などはご遠慮いただいています。

 


どんな人が利用されるのですか

利用者は、就学援助制度、児童扶養手当、生活保護制度の公的支援を受けている人を対象としています。利用には登録が必要で、現在約300人が登録しています。毎日30人から40人が利用しています。


ーどんなきっかけからスタートしたのですか?

2020年4月16日、緊急事態宣言が出ました。まちを歩く人は減り、20日から公立高校・特別支援学校では臨時休校となりました。
この状況を受けて、21日に「おかやま親子応援プロジェクト」が発足しました。子どもや親子の支援を行うNPOやサークル、企業が連携し、日常的にあった体験や学習、物資を届ける活動をスタートさせます。自宅にいる時間が増え、社会と断絶されてしまう期間だからこそ「だれもひとりではない」を合言葉に20団体以上が参加しました。

世界の感染者が1000万人を超えた6月後半、新たな展開をスタートさせる。
同プロジェクトは、岡山市、岡山市社会福祉協議会などと協働で「おかやま親子応援メール」を始めた。ひとり親家庭と生活困窮家庭に向けて、子ども食堂やおしゃべりサロンなどの情報を約1800世帯へ向けてメールで発信し始めた。


ーどのようなニーズがありましたか?

配信メールを使って、アンケートをしました。
アンケートには、9割の人が新型コロナウイルスの影響で苦しい状況にある回答しました。必要な支援には「食料品・日用品」が上位にあがりました。貧困家庭でも親や親戚など頼れる人がいるという回答の人も多いのですが、「頼れる相手がいない」の回答が2番目に多かったことから、コミュニティフリッジの案が浮上しました。

2020年1月。イギリスにコミュニティフリッジの視察に行った人がいました。吉備中央町でレストラン「ベルネーゼ」を経営しながら、移動販売者「いどうスーパーロンドン」をしている成田賢一さん。コミュニティフリッジは、食品事業者から廃棄される食べ物を街に冷蔵庫や棚を置いて、誰でも持って帰れる仕組みとしてドイツ・ベルリンでスタート。2016年にイギリスで始まり、現在90カ所以上に設置され、食品ロス削減、および環境保護に貢献している取り組みだそうです。

文化や生活スタイル、ボランティアをする人の数など、日本とは違う国の活動をそのまま運用するというわけにはいきませんでした。行政やNPOの活動だけに留まらず、市民や企業がどんどん関われる仕組みにすることを重視しました。ポップで明るいデザインを採用し、「コミュニティフリッジ」という名称も使わせてもらいました。


運営で、気をつけたことは?

提供する人とされる人の関係性を考えました。コミュニティフリッジの中には、「コミュニケーションボード」と名付けた壁を用意しています。お互いがふせんに書いたメッセージを貼れるようにしています。

フードプレゼンターは「おいしく食べてください」や「うちで採れた野菜を持ってきました」などのメッセージを、利用者は「ありがとう」「先日の白菜はお鍋にして食べました」などのメッセージが書かれています。ボードは「ありがとう」のメッセージでいっぱいになっています。子どもの字で書かれたものもあり、喜んでくれる人がいると感じることがフードプレゼンターにとっても喜びに変わっていきます。「困ったときはお互いさま」の気持ちが、育まれていっています。


―企業の協力は、寄付だけじゃない

ニーズやアイデアがあっても、協力してくれる企業がなければスタートできませんでした。倉庫と電気代などを提供してくれているのは、ブランチ岡山北長瀬を運営する大和リース株式会社、冷蔵庫を無償提供してくれたフクシマガリレイ株式会社の力添えがあったからこそ。企業ができる支援は、寄付だけでないことも勉強になりました。

春は、卒業・入学シーズン。支援するモノだけではなく、コトでの支援を考えました。美容室「ヴィハーラ」の協力で、卒業や入学を迎える子どもを対象に、無償でカットをしてもらいました。人数は1日に1人から2人だけで、美容室としても無理のない範囲で支援をお願いしました。


―次の展開も考えています

もっと日常的に食べものを寄付できる仕組みを作りたいんです。例えば、3個入りのプリン。2人暮らしだと1個を余らせてしまうこともありますよね。この1個を購入したスーパーに設置したクーラーボックスに入れて寄付してもらう。クーラーボックスに寄付してもらったプリンは、利用者さんのもとへ届くという仕組み。寄付した人とされた人、一緒にプリンを食べたように感じられれば、温かい気持ちになりますよね。

他にも10枚つづりのコーヒーチケット。誰かと一緒に喫茶店に行けば、チケットを使ってコーヒーをごちそうすることもあると思うのです。同じ感覚で利用者さんにコーヒーチケットでごちそうしてあげてください。
この仕組みを「フードギフト」と名付けて、参加してくれるスーパーや喫茶店などこれから募っていこうと思っています。ペイフォワード(恩送り)という言葉がありますが、見ず知らずの誰かに恩が送れる街って、素敵だと思いませんか。


―予想外のことはありましたか?

想定していた利用者数は100人ほどでした。スタート時点で約2倍になり、各種新聞・テレビの影響でどんどん増えていきました。多くの人が困っていることへの驚きと、寄付いただくものが不足していることに心苦しさもあります。来ていただいたのに、何もなかったとがっかりして帰っていかれる人もいます。

登録人数の増加は止まりました。しかしまだ届いていない人がいる、困っている人がいると思っています。寄付する人にも、される人にも「困ったときはお互いさま」の気持ちが広まってくれることを期待しています。


実際にはどんなことがありますか?

寄付していただいたものは、安心していただくためにも、スタッフが検品しています。検品済みのものを約1時間に1度、運び入れます。工夫としては、棚にあまり多く並べないようにしています。人間の心理としては、たくさん並べてあるものは、たくさん持って帰りやすいですよね。もちろん、遠慮なく必要な数を持って帰って欲しいです。利用者が、利用者のことを思いやれる状態を作りたいのです。「困ったときはお互いさま」の気持ちを持ってもらえるように、持ち帰れる数の制限などは設けていません。
 

ハッとさせられたこと

カップ麺を10個並べた日がありました。ある利用者が、5個持って帰りました。独身者の私としては、1個か2個を持って帰るものだと勝手な先入観がありました。

利用者の家族構成は把握していません。子どもが3人、4人いるのかもしれません。ご自宅がコミュニティフリッジに毎日通える場所ではないのかもしれません。育ち盛りの子どもがいれば、ちょっとでも多くの食品が欲しいはずです。多く持って帰るから、「困ったときはお互いさま」の気持ちを持っていない人と決めつけるのは良くなかったな、と反省しました。


―白黒はっきりさせない

北長瀬コミュニティフリッジでは、人と顔を合わさないことをメリットとしています。その中でも、スタッフがいるハッシュタグに顔を出してくれる利用者もいます。時には世間話をしたり、困ったことの相談を聞いたりすることもあります。私にとっては、知らないことを教えてくれるいいチャンスでもあります。NTTドコモがひとり親家庭のサポート割引をしているとか、母子会での支援の内容とか。

ある時、離婚調停中の女性から相談がありました。離婚が成立すれば利用対象者になれるのだが、今はまだそうではないと。本来は利用対象者ではないという判断になると思いますが、困っているのは今。我々は行政ではなく民間の団体として支援をしています。個人の事情がそれぞれにあることを考慮の上、このグレーな部分に白黒つけないことにしました。


本当にまだまだだと思う瞬間

コミュニティフリッジに来れば、食べものの心配はいらない。それでも、明日もがんばろうと思えるほどの支援はまだできていないと感じています。食事にプラスアルファの食べものが増える程度です。経済的にも精神的にも、苦しいところから抜け出すには、もう少し余裕のある食品の量が必要だと感じています。

遠方から来られて利用される人もいます。住んでいる場所の近くにコミュニティフリッジの拠点があれば、もっと役に立てるのだろうとよく考えます。全ての解決の一歩は、より多くの人からの支援を集めること。フードプレゼンターに共感してもらうことへ毎日奮闘しています。


 

フードプレゼンターの思い

フードプレゼンターの登録時にメッセージをもらっています。その中には、食べるものに困った経験をした人もいました。一人暮らしの人からは、食材を余らせてしまうことが多いので、使ってくれることが嬉しいという声もありました。昨年末のお歳暮を持ってきてくれた人もいました。いただいたものだけど、だからこそ捨ててしまうようなことはしたくないと。

「寄付」という言葉を聞けば、お金を渡すというイメージを持つ人も多いと思います。お金を寄付することは、思った以上にハードルが高い場合があるようです。お金は寄付する人とされる人に、知らず知らずのうちに上下関係を作ってしまう印象があるようです。寄付をするなんて上から目線なことはしづらいですと仰る人もいます。

お隣さんに、しょうゆを買うお金をあげるのは嫌だけど、しょうゆを貸してあげることならできる。フードプレゼンターの気持ちは、しょうゆを貸してあげる感覚に近いと思ってもらえたら嬉しいです。


まちづくりをしている

活動としては、苦しい生活の人が少なくなることを願っています。「お互いさま」と思える人が多いまちは、きっと住みやすいまちだと思っています。健康づくりや介護、防災に至るまで「お互いさま」が救う人や命があると信じています。「ハッシュタグ」は、自分の好きなこと、得意なことをチャレンジする場所でもあります。得意なものができるとどんな小さなことでも、きっと誰かを喜ばせたり助けたりできます。何かに挑戦する人を応援する場所であり、困っている人の手助けができる場所でもありたいと思っています。
 


これから向かう方向は

今後提供できるものが増えていけば、バーコードリーダーを導入して在庫管理をしっかりしてコミュニティフリッジでロスの出ないようにしたいと思っています。今は寄付していただいたものはその日になくなってしまいます。数が多くなったとき、あとどれくらいあるのか、それはいつまで食べられるものなのかを把握して、利用者にお伝えできる仕組みを作りたいと思っています。この他にも、食堂を開くとかコンポストを置くとか色々夢は広がります。


拠点を増やす

全国からコミュニティフリッジを開設したいとお問い合わせをいただいています。現在、全国展開できるようにノウハウをお伝えする準備を進めています。寄付者・利用者の申込フォームや在庫管理を行うバーコード管理システム、メール配信サービス、電子ロックなどの運営マニュアルなどなるべく低価格で始められるように努力しています。説明会の開催も随時進めていて、拠点ができれば研修会や交流会での情報交換の場を作ることも検討しています。全国にコミュニティフリッジができることで、「お互いさま」の気持ちが溢れるまちが増えることを願っています。

コロナ禍で浮き彫りになったのは、目に見えなかった貧困。見えるようになった課題に、多くの人が「お互いさま」の精神で寄付をし始めた。

支援の輪は広がり、継続的な「お互いさま」が文化となり、北長瀬のまちが住みやすいまちと言われるようになるまで見守っていきたい。

 

 


コミュニティフリッジ 公式サイト
 

 

Webから支援する(スマートサプライ)
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この記事のディレクター

大都会おかやまの住人

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#岡山県 #岡山市 #北長瀬 #貧困 #シングルマザー #新型コロナウイルス #失業 #支援

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