西村周治(西村組親方、廃屋建築家 )
1982年京都の向島に生まれる。
2005年大学を卒業後、20代は定職につかずふらふらしながら、廃屋をDIYしてシェアで暮らす。30代に一念発起して(有)Lusie 神戸R不動産で働きはじめて独立、西村組の親方として活動を始める。日々、廃屋を直す毎日。
いかにもな作業着に身を包み
待ち合わせ現場である改札前にとぼとぼと現れた西村さんは、
「じゃぁ歩いて行きましょうかぁ。その路地を下りたすぐの所ですから」と
こともなげにいいはなち、本当に駅の目と鼻の先、「え?ここ?」という路地を降り始めた。

市街の中心部からは幾分離れているとは言え、
ここは兵庫県神戸市内。
<集落ごと廃墟化していってるエリアの物件をどんどん買い取ってはリノベーションを行い、人を住まわせては新しい集落に生まれ変わらせている>
そんな途方もない活動を行っているという話を聞いて取材に来たのだが、しかしまさかこんな駅前にそんな場所が?
と、一瞬戸惑ったものの、彼について歩いていくと、路地を下り始めた坂の下には想像以上のエリアが広がっていた。

「元々、肉体系技術系の労働者の人が住んでた一帯で、仕事の為に朝電車に乗って色々な現場に行って、また電車で帰ってきてって感じだったみたいです」
なるほど、高度経済成長や期やバブル期なども含め、都市のインフラ整備や重工業に携わっていた人々の為になんとか開発されたけれど、そういった人々が去って以降は廃れていったエリアなのだろう。
この一帯の多くをしめる廃屋状態の物件を買い進めて、修繕しているというのだから驚きである。

「ここ実は集落がまるごと袋小路になっていて、車も入れず現代的な暮らしには不向きな側面もあるんですよ」
どうやら私たちが駅から通ってきた道以外にこの集落にアクセスできる道路がないらしい。完全に労働者の為にと作られた集落だったのだろう。

「今メインで作業しているここの物件は元々はペットの葬儀社だったみたいです。火葬施設だけでなく、ペットのお墓ぽいものもあるし」
ペットとはいえ、一般的に火葬場は集落にできることを好まれる事業形態ではないだけに、集落の紆余曲折具合が伺いしれる。

そんな事を考えながら門をくぐり少し進むと西村さんが、ここが今ちょうど手を入れている物件だと教えてくれた。

建物に入ると、確かに、主だった壁も床も天井も色々と剥がされ、躯体が剥き出しになっている。


「この物件をこの村の集会所というかリビング的にしたいなと考えてるんですよね。見晴らしがいい場所なんで、ウッドデッキならぬバンブーデッキをどーんと作って」


ーこの物件以外に、このエリアでどんな物件があるのですか?
「まだ買い進めている途中なんですけど、例えばこの真下の物件は建設会社の事務所兼社宅だったところらしいのですが、今もその当時のほとんどそのまま残っているので、少し手を入れたらわりとすぐ住めるようになると思っています。まだあんまりよく中を見てはいないんですけど」

ー中をあまりよく見ていないってことですが、詳しく見ないで買って大丈夫なんですか?
「まぁどんなに中がひどい状態でも結局は直すので、あまりじっくりとは見ないですね。もちろん、状態が良い方が直すのに楽ではありますけど」


ーなるほど、「どういう状態でも直す」ということが決まっているのであれば、必ずしも中を詳しく見聞する必要が無いという理屈はわかるのですが、それでも普通、不動産を購入するとなると躊躇すると思うのですよ。それを実現できているのは経験による勘のようなものがあるということですか?
「うーん、もちろん数字は見てますよ。こういう廃墟を購入して直して、っていうことを始める前は不動産屋でずっと働いていましたし、というか今も働いていますが。大学でも建築を勉強してましたしね。(注:西村さんは一級建築士でもあります)物件を直す時にやること、やるだろうこと、やりたい事を考えて、家賃を想定して売価を見て借入額を考えて…とか。でもまぁだいたいなんとかなりますよ(笑)」
ーそうやって作られた物件は建売住宅やマンションなどと比べれば暮らしにくさもあると思うのですが、どういった人が住む想定をしていますか?
「アーティストのアトリエや、こういう物件を直しながら作りながら色々やっていきたいって人を想定していて、住まなくても良いと思ってるんですよね。週末に趣味で家作りとか集落で遊ぶとか、そういうニーズを持った人って僕のまわりにはっけっこう居て。実際にこの村の物件も、もう随分と借り手はついてるんです」

ーなるほどそうなんですね!直しながら作りながらというのであれば、この状態でも借り手はつけられますものね!しかし、どうやって借り手を募っているのですか?そしてこういう物件はどうやって探しているのですか?
「物件はもう勝手に集まって来る感じです。知り合いの不動産屋とか銀行の人が『この物件、このエリアを買ってなんとかしてくれるんは君だけや』って言うて、話を持ってきてくれるんです。まぁ実際そうやと思うんですけど。この場所も以前に町歩きで訪れたことがあって、その時に一度見てはいたんです。そしたらお話をいただいてって感じですね。借り手は主に私の友人やその周りの人です。普段からHPやSNSでもこういう事をやってるよって言って、ちょくちょく人を集めてイベント的な事をやってると、来てくれた人やその人の知り合いとかから借りたいって人が出てきてくれてって感じです」


他にも、購入は済んでいるものの、まだまだ手がついていない建物がたくさんあるようだ。
今後の改修の予定、目処はたっているのだろうか。
「こっちの村づくりとは別に請けてる内装の仕事とか、別の集落の修繕とかのメインの仕事がお休みの時に一人で泊まり込みに来て手を入れたり、ワークショップ的な感じで借りてる子とかそお友達が来て色々やっていったりで進めているのでゆっくりですね」

ーえっ? 別の村もあるんですか?
「ここはまぁ個人の趣味という感じで、ここと並行して西村組のスタッフたちと作ってる別の集落というか、案件もあって、そっちは借入返済の都合もあるので収益化をわりとシビアにみてやってます。で、そっちであがった利益をこっちに突っ込んで、みたいな感じです。よかったらそっちも見ますか?ここからだとわりとすぐですよ」
はい、と二つ返事でお願いした。
ここまで来て中途半端で終われない。
古めかしい大きめのトラックに乗せてもらって二人で移動する。
「ここから先は車が入れないので、あとは歩きます」
そう言って砂利敷の駐車場に車を停め歩き出す西村さんを追って数分歩く。

「このあたりはこういう入り組んだ細い道が多くて、良い家もたくさんあるんですけど、なかなか買い手や借り手がつかなくて」
神戸は坂の町でもあるし、細い道、階段も多い町。

この一帯だけでなく、神戸には今後も同じようにエリアごと朽ちていく可能性も多分にある。その辺りはどう考えているのだろう。
「手を出すのは長田を中心としたこのエリアだけですね。うーん、相談や依頼は来るんですけど、遠いのはほとんど全部断っています」

長田区にこだわる理由は何かあるのだろうか。
「長田区にこだわるのは、とにかく神戸市でも空き家が多くあるエリアだからで、そこに変化をもたらしたいという思いがあります」
なるほど、最も空き家があるエリアで変化を作ることで、インパクトを作ろうと考えているのだろう。
そういった会話をしているとくだんの現場にたどり着いた。
「ここから先の左右にある物件を買っていきつつ直していってます。こっちにももう何人か借り手がついてて、西村組でも場所を借りてます」

辺りでは何人かの若者が資材を運び込んだり、インパクトドライバーを使って板を打ち付けたりと、手際よく仕事を進めている。


既に幾つかの物件を購入して進めているこのエリアの改修計画概要を聞いていると、大きなカバンを携えた男性がバイクに乗って現れた。
地元信金の担当者だという。西村さんはその男性と談笑しながら資金計画、返済計画の話などをし、借入返済の為に預けていたらしい通帳を担当者から返してもらい一瞥すると「えー!こんなに少なくなるの、間違いじゃないですかー?!」と冗談めかして嘆く。「間違いじゃないですよ。ちゃんと間違いのないようお返しいただきました。」と返す担当者も慣れたもの。

「現状、物件を作れば作っただけ借り手は見つかるし、返済の滞りもなく、逆にすごい速さで返しているんですけど(笑)、買って直してる物件が物件なだけにどこでもがお金を貸してくれるってわけじゃないんです。それが悩みですね」
格安の不動産を購入し修繕し、大家として自ら賃貸に出し、そこで出た利益でまた格安の不動産を購入して直す、というサイクルで西村さんも西村組も、西村さんの作り出す村も成長していく。至極まっとうに思える。それでもいわゆる社会的な評価基準で見れば価値が低い不動産の購入用資金の借入は難しいのだと言う。
そうまでして評価額が低い物件を自ら買い上げて修繕し続けるそのモチベーションは果たしてどこから来るのだろう。
現状で大家業に軸足を移しても十分余裕のある暮らしができるだけの状況にはきているはずだ。
「廃屋が好きだからじゃないですかね(笑)」

そう、西村さんは廃屋ジャンキーなのだ。
西村組のHPには西村組の紹介ページに以下のような記載がある。
”廃屋ジャンキー/ほぼ自然物を愛でる/あるものでつくる/土に還す/有機的な建築集団/神戸”
とてもとても、よくわかる。
現場を見、修繕している物件を見、スタッフたちを見、廃屋を嬉しそうに案内し説明する西村さんを見た後であれば、この言葉のそれぞれに合点がいく。
そう、西村さんを見ていると自然の生態系を思い出す。
生き物は生まれ、育ち、いずれ土に還る。そしてその土で新しい命が育まれる。図らずも西村さんは不動産や集落、村の循環を行っているのだ。
それも、経済原理だけでなく、個人の嗜好と思考の元での行動として。
彼や彼らの応援をすることは、彼らの望むものとは異なるかもしれないけれど、私はこれからも彼らと関わりを持ち続けていきたいと思うし、体感し、学んで行けたらと思う。その為に、彼らの活動がこれからも続いていくことを願って、勝手に応援させてもらいたいと思っている。
<西村組 HP>